そんな竜に対して、近隣の諸国は手を携えて討伐隊を組織することにした。
武に優れる者、術に秀でた者、その数200名を越える。
そんな中に、二人の女性の姿があった。
紫がかった銀髪の娘は名をフォルデアといい、金髪の娘はオプティアという。
彼女らは討伐隊の中でも秀でた力を持ち、その剣や術によって屠られた眷属は数知れない。
周囲に眷属を侍らせる邪竜に、二人は臆せず戦いを挑んだ。
その戦いは、長く、激しく続いたが、最終的に竜が倒れ、娘達の勝利で幕が下りる。
そして――
フォルデアの刃が邪竜にとどめを刺すと同時に、彼女の姿も掻き消えた。
彼女の身が、邪竜の良心が見た「暴走する自分を誰かに止めて欲しい」と願う夢の産物であったが故に。
本体である邪竜の死と同時に、その分身であったフォルデアも消え、残ったのは重傷を負ったオプティアと、死に際に邪竜が産み落とした一個の卵。
卵には、邪竜から切り離されたフォルデアの魂が宿っていた。
卵を託された少女は、孵った白竜にセタンダと名を付け、大切に育て始めた。
朝も夕も共に過ごし、そして長い年月が流れる。
少しずつ育っていった子竜もいつしか夢を見始めた。
かつて共にあった親友と再会したい。
共に空を飛びたいと。
そして、その夢が形を成す日が訪れる。
空を行くセタンダ。
それを見上げる、どこかオプティアに似た少女。
二人の視線はほんの一瞬だけ重なった。
少女の住む町に、セタンダと名乗る一人の少女が訪れるのは、その翌日のこと。
「ねーねー、この街に来たのはいつ?」
「昨日だよ」
「じゃあ見たよね、空におっきな竜が飛んでたの。
いつか乗って飛んでみたいなぁ」
「もう少し君が大きくなったら、きっと乗れるよ」
自身が竜の夢の結晶、化身であることを明かしたセタンダは、竜身を顕すと少女に手をさしのべ誘うのだった。
セタンダが焦がれ、少女が憧れた大空へ。
世界を巡る旅へ。
セタンダに乗り、眼下に街を眺めながら少女は震えていた。
高所から見下ろす景色におびえて。
高く広い視界に感動して。
そして、少女はそっとささやいた。
「やっと一緒に飛べたね、フォルデア」――と。